痛み,不妊,音楽家の鍼灸治療
100年の歴史 鍼灸専門
広済鍼灸院 
東京都港区元麻布2-1-21
(中国大使館隣)
ご予約: 03-3445-0887
KOSAI Acupuncture Clinic【Since 1905】Tokyo,Minato-ku,azabu,hiroo,roppong
Tel:03-3445-0887
Consultation Hours10:00-13:00, 15:00-18:00
Closed on Thursday

鍼によるがん性疼痛の緩和 
Effect of acupuncture on cancer pain

体に負担のかからないペインコントロール

 がんにおける痛みは肉体的にも精神的にも苦痛を強いるつらい症状であるため、早急に解決しなければならない問題です。現在の西洋医学的治療では症状の進行度に合わせて鎮痛剤やオピオイド(モルヒネ)を用いた鎮痛が主体となって行われています。しかし長期にわたる薬物の使用は薬剤投与量の増量や鎮痛効果のより強い薬剤の使用によって起こる副作用に悩まされることも少なくありません。
 もっとも多い原因は骨転移から生ずる痛みですが、がんにおける痛みは以下の4つに大別されます。

 
 当院では骨転移に伴う痛みを緩和することに多くの効果をあげてきました.鍼麻酔法を応用した方法ですが、鍼麻酔と言っても意識は正常に保たれるものであり、モルヒネ使用時のような意識低下や便秘といった副作用の心配もありません.(腸蠕動運動が活発になり食欲が回復した例もあります.)鍼には薬理的な作用はないため薬物療法と併用しながらでも安全に鍼治療を受けることが可能です.
 がんの痛み治療においては基本的に鎮痛薬と鍼を併用しながら行われますが、鎮痛剤を用いながら鍼灸治療を併用することは、疼痛を軽減させ鎮痛薬の増加を少なくさせるばかりでなく心身の愁訴を軽減させることによりQOLを高めた日常生活を送ることができます.
 現在、国立がんセンターではペインコントロールの一環として鍼を導入しており、鍼は信頼できる痛みの治療法として取り入れられております。また、アメリカやオーストラリアでは痛みを学際的、専門的に扱うペインセンターが存在していますが、現在鍼治療は鎮痛薬の補助や投薬後も鎮痛効果が十分に発揮されない症例に対して疼痛管理を補完する統合医療としても実践されています

鍼による痛みの作用機序

 鍼により特定の経穴を刺激すると脳内に存在するモルヒネ様物質が分泌され鎮痛効果を発現します.脳内モルヒネ様物質とは体内で生成されるモルヒネと同等の作用をもたらす物質のことをいい、エンケファリンやエンドルフィンといった物質が確認されています.鎮痛持続時間には個人差はありますが鍼鎮痛効果は刺激終了後にも持続させることが可能です.

低周波鍼通電療法

   皮膚の神経分布(デルマトーム)

 低周波鍼通電療法の作用機序はオピオイド(モルヒネ)拮抗薬であるナロキソンによって拮抗されることから脳内の内因性モルヒネ様物質(morphine like factor)が介在する内因性鎮痛系です.

低頻度鍼通電によって脳脊髄および末梢エンドルフィン濃度が増加し、全身性に鎮痛効果が発現します.
 
 脊髄神経とその神経により支配される皮膚領域には規則的な対応があり、皮膚の脊髄神経支配領域は分節性に配列しています。これはデルマトームと呼ばれています。末梢神経が障害(おもに神経根)されると、このデルマトーム上に疼痛や異常感覚が出現し、その領域における圧痛や硬結などが現れます。また内臓の痛みや機能障害などは、原因となる内臓からの求心路(知覚神経)が、入力される脊髄分節のデルマトーム上に痛みや感覚異常、圧痛や硬結を出現します。(内臓-体壁反射)
 これらのデルマトーム上の圧痛や硬結などを指標に内臓痛の軽減や機能改善(体壁-内臓反射)、末梢神経の痛みを改善させるのがデルマトームを指標にした鍼灸治療です。がん性疼痛に対するデルマトームを指標にした鍼灸治療では、デルマトーム領域の反応点(圧痛、硬結など)を治療部位としますが、痛み以外にも低下した胃、腸のはたらきを改善する経穴に治療していきます。 
 
 

東洋医学的治療での全身状態の改善

 全身の愁訴を改善することを目的とした東洋医学的治療も上記の治療に加えています。がんの症状に伴う不定愁訴(食欲不振、便秘、頭痛、関節や筋肉の痛みなど)を改善するための鍼灸治療を行っております。また、自宅療養中の患者さんには在宅医療機関と連携した訪問治療も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

広済鍼灸院の鍼治療の特色

 広済鍼灸院での鍼治療は、低周波鍼通電療法(鍼麻酔方式)、痛みの部位(デルマトーム)を指標にした治療、東洋医学を主体とした全身状態の改善を目的とした治療の主に3つの治療法に分類されています。
 治療を行うにあたって、患者さんの全身状態を詳細にチェックし、患者さんにとって最適な治療法を相談の上、選択します。当院では先ず痛みを軽減する治療を行いますが、患者さんの痛みの訴えを十分に理解し、ご家族からの情報も得た上で治療を開始します。

【癌性疼痛に対する鍼灸治療例の紹介】

※ 下記に掲載した鍼灸治療例はご自宅で療養生活を送っていらっしゃった方の症例です。広済鍼灸院では患者さんの病状等のプライバシーについては厳守の方針ですが、鍼灸治療がかなりの効果をあげた一例のため、患者さんの強い意向により治療経過をあえて掲載させて頂きました。
現在は痛みを生理学的な尺度で測るシステムはありません。文中のVASとはビジュアル・アナログ・スケールの略語で、痛みの尺度を十段階評価で痛みの感度を主観的に表現してもらう基準として使われているものです。「VAS…10」が激痛を表し、0が無痛を表します。
なお、鍼による治療法は低周波鍼通電、通常の鍼治療を組み合わせて行いました。
 
■ 所見(49才 女性)
◉ 病態)19才の時にホジキンリンパ腫を発症するが放射線治療により治癒。以後はとりわけ再発もなく健康な状態で過ごしていたが、49才の時に乳癌が見つかり手術により左乳房切除。その後免疫強化療法を試みるが半年後の再検査により癌の全身転移が見られる。骨転移による進行性の疼痛がありペインクリニック医師によるモルヒネ注射を繰り返すも経過とともに鎮痛効果があまり見られなくなる。また注射時に激痛を伴うようになり、心身の疲労を訴えるようになる。鍼治療はペインコントロールを目的として治療を開始。
■初診時:VAS…10 腹部筋および皮膚の過緊張が見られる。右悸肋部に極度の痛覚過敏部位(アロディニア様症状)あり。その部位は常に大量の発汗が認められる。
■2診目:VAS…5 腹部の緊張感が軽減したとの報告あり。同時に腸がよく動く感覚があり、ガスがよく出るようになる。本人も症状の改善感があり気分的に良好とのこと。まだ痛みは残っているものの右悸肋部の痛覚過敏症状と発汗が改善。
■3診目:VAS…4 歩行可能。食欲あり。
左腋窩部に転移している腫瘍塊に変化が見られるようになる。その腫瘍塊は当初は固形様ものであり、経過とともに増大傾向のあるものであった。そのため腕神経叢を圧迫することがあり左上肢挙上時に痛みを感ずることがしばしばあった。しかし全身的な疼痛が緩和されるにつれて腫瘍塊が柔らかくなっていき、塊自体も縮小傾向がみられるようになった。患者本人も気分的に前向きな感情を見せるようになる。
■4診目:VAS…3~4
免疫療法のため免疫製剤の点滴を受ける。
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■7/31
排尿時痛あり。夜間頻尿。悸肋部不快感。食後の胃痛がある。上脘、中脘部位に高頻度低周波通電。
■8/2
免疫療法。夜間にトイレに4回ほど行くも膀胱炎様症状は軽減。いつもは免疫療法の点滴のあとはひどい全身倦怠感に見舞われるが今日はそのような倦怠感はない。腸蠕動運動あり。前回訴えていた悸肋部痛はかなり軽減する。(悸肋部痛に限定して7/31の疼痛閾値をVAS:10とすると8/2時点ではVAS:3に下がる)モルヒネパッチの容量を初めて15mmgに減らすことができた。(痛みが強いときに限りオプソを使用していたが、鍼治療以降は使用していない)
■8/9
在宅往療医師による診察。理学療法士による左大腿部関節のストレッチ、マッサージを受ける。
■8/11
左大腿部関節から膝関節にかけて外側に痛み。痛みのため歩行困難、体動時痛あり。ペインクリニック医師により臀部への痛み止め注射を打つも改善傾向なし。
■8/29
全般的に痛みは和らいでいる状況。半年ぶりに入浴する。入浴後も特に痛みが起こることなく快適な状態が続く。伏臥時に左下肢大腿部の筋痙攣は未だに起こる。起立時に左下肢全体に静脈の怒張が見られる。この現象は女性ホルモン製剤による副作用と考えられる。VAS:3
以降約半年間は体調により痛みの程度に変化はありましたが、痛みのレベルは2~4の間を維持することができました。
初めて訪問した時には余命約2ヶ月との宣告を受けており、精神的にもかなり疲弊された様子でした。しかし、初回の治療後から痛みが軽減したことから、精神面がとても前向きになっていくのを感じ取ることができました。また、モルヒネの副作用であるひどい便秘が解消した頃から、食欲が沸き、好きなものを食べられるようになりました。腫瘍マーカーや炎症反応を示す検査数値も下がることもあったため、希望を持ち快活さが戻ってきたこともありました。この患者さんは免疫療法、温熱療法などがんの治療に関するほとんどの治療法を一通り経験したと言っておられました。
「今までのすべての検査データをあげますから、私の実例を論文や世の中に公表してもっと癌の痛みに鍼治療が効果あることを広めてください。約束ですよ」お会いするたびにこの言葉を実行することを約束させられました。
1年近くこの患者さんの治療を行っておりましたが、あらためて鍼治療のこれからの責務を痛感させられたものです。